『ライオン丸』の「超展開」
当時は高度経済成長の行き詰まりもあり、ヒーローたちも様々な屈折を抱えていました。それまでのヒーローたちが科学の輝かしさを象徴していたのに対し、この頃の番組は公害が怪獣化するなど、文明の暗黒面が描かれるようになりました。いえ、そんな暗さこそが数々の名作を生んだわけでもあり、『風雲ライオン丸』はとにもかくにもシリアスな展開が見どころの一つです!
「父のかたきライオン丸!」では獅子丸が斬った(忍者なので刀が主な武器となっています)敵の戦闘員が罪のない村人を改造した存在だと知り、息子に仇討ちされそうになる話。
「南蛮寺の秘密」は一種の密室ミステリーですが、人間たちのエゴの錯綜する中、唯一聖人君子として振る舞っていた神父もまた、欲の塊であったと知ってしまう話。
後に述べるブラックジャガー・黒影豹馬や七色虹之助といったキャラクターもそれぞれ悲惨な最期を遂げています。1話1話のストーリーが作り込まれているからこそできる濃いシリアスな話であり、まさに毎話手に汗握る熱い展開といえます。
「よみがえれ弾丸(ロケット)変身!!」は敵の強大さに打ちひしがれた獅子丸が戦意を喪失し、自問自答を繰り返す話。獅子丸の心象風景ともいうべき虚無感漂うイメージ映像に続き、黒バックに白文字で「俺はマントルゴッドに対して何もできなかった」などと獅子丸のモノローグと思しき字幕の入る演出がなされます(マントルゴッドというのはラスボスの名前です)。二十年ほど前に一世を風靡したアニメ『エヴァンゲリオン』に近い演出が、その更に二十年前にこんな先進的な形でなされていたことに驚きますが、しかしこれはむしろ、当時のATG映画などに影響を受けていたのではないでしょうか。
ちなみに……話の流れからして、この話の前には「獅子丸がラスボスと対峙して、負ける」といったエピソードが入っているべきなのですが、特にそうしたお話がない!!
実のところこうした「巨大な敵に立ち向かい、挫折」といったモチーフは学生運動の終焉という時代の気運もあり、当時のサブカルチャーに普遍的に観られた部分でもあります。実際、『快傑』の方ではライオン丸(タイガージョー)が巨大な敵ゴースンに敗れる様が幾度も描かれ、効果を上げていた描写もありました。
『ライオン丸』のいい男たち
お待たせしました。最後になってしまいましたが、本作の魅力的なキャラクターたちについて述べていきましょう。
先にも述べたように主人公の弾獅子丸は、『快傑ライオン丸』に引き続いて潮哲也さんの出演。元からスマートで端正な顔の美形で、男らしい昭和ヒーローの中では希少なイケメン。『快傑』でもストイックな色気の溢れるキャラクターでしたが、本作では「寡黙な復讐者」といった設定のため、カッコよさが更にアップしています。
初期のライバルはブラックジャガーに変身する黒影豹馬。悪の手先となって獅子丸をつけ狙うモノの根はいいヤツで、戦災に子供を亡くした母の姿を見て、改心。しかし強敵を倒して名を上げたいがため、最強怪人との無謀な戦いの末に一人寂しく散っていきます。上で挙げた「ライオン丸の敗北」と同様、本作のアメリカンニューシネマ的なテイストを体現したキャラとなっています。
そしてこの豹馬が退場する話、「生きていたタイガージョー!」に登場する第二のライバルがタイガージョーJr・虎錠之進。タイガージョーは『快傑』にも登場したライオン丸のライバルで、好評による続編への登板となっています。一応、Jrとあるようにタイガージョーの弟ということになっているようですが、本人はまともに名乗らなかったり、獅子丸には(前作と同じ名の)「錠之助」と呼ばれたりと、見れば見る程考えさせられる作品でもあります。
タイガージョーJr・虎錠之進本人は全てを達観し、獅子丸に「小の虫を殺しても大の虫を生かす」といった正義の非情さを説く、豹馬とは真逆なキャラとして描かれていました。
そして……更に登場したのが第三の男、七色虹之助。変身もせず、どちらかといえばコメディリリーフとしての役割を持ったキャラで、タイガージョーJrよりも更に達観した、肩の力の抜けたキャラでもあります。笑いを取りつつも獅子丸を導く兄貴分として活躍していきます。
以上、駆け足で見てきましたが、マイナーながら時代を超越した異彩を放つ本作の魅力、伝わりましたか? まだまだ語り足りない程の作品『風雲ライオン丸』。
そんな『風雲ライオン丸』は、現在「時代劇専門チャンネル」で放映中。あなたもこの作品の魅力にハマってみてはいかがでしょうか!
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